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zoom RSS 生涯に一度の夜(レイ・ブラッドベリ)

<<   作成日時 : 2015/12/29 16:05   >>

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1, 2週間ほど前,HTTPのステータスコード451が話題になった.

政府の検閲で消されたページを表わす「451エラー」がスタート - GIGAZINE
http://gigazine.net/news/20151222-http-status-code-451/


このステイタスコードは,レイ・ブラッドベリの「華氏451度」に因んでいるという.それで,ブラッドベリの作品について書いてみたくなった.内容的に,クリスマス前にエントリにしたかったのだが,この時期になったのは残念だ(いつものことであるけれども).

ブラッドベリは,一言で言えば,SF作家,小説家ということになるだろうか (Wikipedia の記事).普段私があまり読まないジャンルの作家で,私も数冊くらいしか読んだことがないのだが,今回のエントリで対象とする短編集「二人がここにいる不思議」は,ブラッドベリの最高傑作の一つではないかと思っている.

…などと,ブラッドベリに詳しくもないくせに偉そうなことを書くと,諸賢から叱責されるのが目に見えるようだが,要はそれくらいこの短編集が好きであるということだ.いまAmazonで調べたところ,日本語訳は絶版であり,kindle化もされてないようだ.こんな名作が埋もれてしまうのは残念なので,やはり,ブラッドベリに詳しくない私でも,あえてこのブログで記事にしてみたい.

「二人がここにいる不思議」所収の短編はどれも傑作なのだが,特にここではその一つの短編,「生涯に一度の夜」について書いてみたいと思う.

「生涯に一度の夜」の主人公は,トマス(トム)である.トマスは,妻ヘレンと離婚したばかりだった.その理由については明らかにされていないが,読者にはその理由が分かる.トマスとヘレンは,お互いをよく理解しあえなかったのだ.

トマスは,十七歳のころの願いを忘れることのできないような,良くも悪くもロマンチックな男だった.一方で,ヘレンはそれとは対照的に,あくまでも現実的で都会的な女性だったのである.

トマスの願望とは,以下のようなものだった.

春の夜の散歩というのに憧れていてね.そら,朝まで温度が下がらない,暖かい夜があるだろう.歩くんだ.女の子と一緒に.一時間ほど歩くうちに,まわりの物音や景色から切り離されたような場所に着く.丘を登って腰を下ろす.星を見上げる.(中略)
まわり中に町があり,離れたところにはハイウェイも走っているけれど,誰もぼくらのことは知らない.ぼくらがその丘のてっぺんにいて,草むらに寝て,夜の景色を見ていることを.
彼女とは手をにぎっているだけでいい.(中略)その夜いろんなことが起っても,こういうことが一生記憶に残るんだ.手をとりあうことが,それ以上の意味を持つ.ぼくは信じるよ.あらゆることが幾度も起って,終って、驚きがなくなったとき,最初に何が起ったかが重要になる.


こうした願いを大切にしていたトマスは,新婚一か月のころ,月の明るいある晩,ヘレンに,丘の上で夜を過ごそうと誘う.しかし,ヘレンはつれなくその思いを拒絶する.男と女はどこまで行ってもすれ違うままである.

それから幾年たったのか,トマスとヘレンは離婚した.離婚して間もないうち,トマスは仕事のため,車を運転しながら,ニューヨークに向かう.何もかも,誰もかもから,数千マイル離れて.それは,過去からの逃避行でもあった.さらにいえば,トマスは,胸に抱いていた,大切な願いからも逃げたかったのかもしれない.

そしてトマスは,その途中で,若く美しい一人の女性と巡り会うのである.この女性は,現実の存在なのか.それとも夢だったのか.いずれにせよそれは,トマスにとって生涯に一度の夜となった.奇跡が起こったのだ.

人生には一夜だけ,思い出に永遠に残るような夜があるにちがいない.誰にでもそういう一夜があるはずだ.そして,もしそういう夜が近づいていると感じ,今夜がその特別な夜になりそうだと気づいたなら,すかさず飛びつき,疑いをはさまず,以後決して他言してはならない.というのは,もし見逃せば,ふたたびそういう夜が来るとはかぎらないからだ.逃した人々は多い.たくさんの人びとが逃し,二度とめぐりあっていない.なぜならそれは天気,光,月,時刻というすべての条件,夜の丘と暖かい草と列車と町と距離が,ふるえる指の上で絶妙のバランスをとった瞬間にあらわれる夜だからだ.




この短編集の内容は,他にも多岐にわたっている.そのいくつかをあげると,SF, 幻想,ホラー,ユーモア,青春,ラブストーリー,ゆるし,等々である.そしてそのどれもが逸品である.

この短編集を評して,小説の名手ブラッドベリが著した珠玉の短編集といえば,あまりにも陳腐である.しかしながら,この短編集はまさにそうとしかいいようがない.色とりどりの宝石がつまった,宝石箱のような短編集である.




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