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zoom RSS 僕に踏まれた町と僕が踏まれた町(中島らも)

<<   作成日時 : 2016/02/28 18:45   >>

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先日,生涯に一度の夜という記事を書き,それから連想して,中島らもによる「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」のことを書いてみたくなった.なおこの作品については,以前,本をあまり読まない中高生に薦めたい10作品(その2) でも少し言及した.

中島らもは,ほぼ団塊の世代であり,70年代のヒッピー文化や安保闘争の時代に青春を送っている.酒やドラッグによる破滅的な人生を送った人だった.このあたりはらも自身がエッセイなどに度々書いているが,特に,らも夫人である中島美代子による「らも ― 中島らもとの三十五年」を読むと,凄まじい.そもそも70年代の日本の若者文化は,アメリカ文化を薄っぺらになぞったものであり,そういう時代背景の極北に,らもの人生もあるのかもしれない.

しかしそれでも,中島らもの人生には,私を惹きつける何かがある.特に,らもが作家活動を本格的に始めた当初の作品の中の,「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」「今夜,すべてのバーで」「頭の中がカユいんだ」などは,今でも強く印象に残っている.

「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」は,中島らもの,エッセイ風自伝と言えるだろう.中島らもは,中高時代は灘校であり,親が歯科医という恵まれた家庭でもあったから,そのまますんなり行けば,エリートと言われるような人生を歩んでいたことだろう.だが,そうはならなかった.らもは,中高時代,以下のような思いに責め苛まれていた:

そのころの僕は,自分が腐った膿(うみ)のかたまりであることを自覚していた.もちろん世界は自分よりもっと腐っていて,いっそもろともに爆発し,消滅してしまうことを望んでいた.


当時のヒッピー運動に強く影響されていたこともあって,中島らもは,酒や薬物に溺れていくようになる.そして,それらの行為の背後には,常に死と破滅の色濃い影がある.この影は,生涯を通じて,らもを覆っていたように思えてならない.

このような生き方で,中高時代がうまく行くわけもない.また,当然のごとく大学受験にも失敗した.この本では,浪人時代,大学時代の生活が,中高時代とは違い,あまり詳しく述べられていない.その理由として,らもは,それらがあまりにも不安な日々だったために,記憶が抑圧されていて,当時のことを思い出せないからだという.

本書で,中島らもの十代二十代は,ポール・ニザンの有名な言葉によって,間接的にではあるが,語られている.

「僕はそのとき二十歳だった.それが人生の中で一番輝かしい時期だなどとはだれにも言わせない.」
 ポール・ニザンの「アデン・アラビア」の冒頭の一行である.昨年,ある成人式に呼ばれての講演でこの言葉を引用したが,聴衆の青年たちは,ただ笑いさざめいているだけだった.


成人式に参加する青年達,それはまさに,日の下であくまでも明るく輝いている,希望の象徴である.死と破滅の影とともに生きている中島らもと,それらの青年の間には,越えることのできない断絶があった.

しかしながら,それでも,作家活動をしていた時代は,朝日新聞で連載していた「明るい悩み相談室」が話題になるなど,らもの生涯でも最良の時期ではなかったか.この本で,らもは,自殺した友人への思いを表すのだが,そこには,生を彼なりに受け入れようとする姿勢がうかがえる.

 あれから十八年が過ぎて,僕たちはちょうど彼が亡くなった歳の倍の年月を生きたことになる.かつてのロック少年たちも今では,喫茶店のおしぼりで耳の穴をふいたりするような「おっさん」になった.そうした軌跡は,かっこうの悪いこと,みっともないことの連続で,それに比べて十八で死んでしまった彼のイメージは,いつまでも十八のすがすがしい少年のままである.
 自分だけすっぽり夭折するとはずるいやつだ,と僕は思う.薄汚れたこの世界に住み暮らして,年々薄汚れていく身としては,先に死んでしまった人間から嘲笑されているような気になることもある.
 ただ,こうして生きてきてみると分かるのだが,めったにはない,何十年に一回くらいかもしれないが,「生きていてよかった」と思う夜がある.一度でもそういうことがあれば,あとはゴミクズみたいな日々であっても生きていける.
 だから「あいつも生きていりゃよかったのに」と思う.生きていて,バカをやって,アル中になって,醜く老いていって,それでも「まんざらでもない」瞬間を額に入れてときどき眺めたりして,そうやって生きていればよかったのに,と思う.あんまりあわてるから損をするんだ,わかったか,とそう思うのだ.



中島らもは,中島らもとして生きていくしかなかった人であった.その人生が良かったのか悪かったのか,軽々に語ることはできない.しかしながら,彼の作品と生涯は,この地獄のような世の中で生きていくということ,そして死ぬということを,常に私に問いかけている.





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